今回の実験では、見通しの確保された(2地点間に障害物が一切無い)東京湾の海上でLoRa無線がどこまで届くのか確認を行いました。
その結果、見通し環境では約7kmの距離で安定した通信が確認されました。また、20kmを超える距離でも条件によっては通信が行えたものの、安定した通信を維持するのは難しく、実用レベルでの運用は困難であることが分かりました。
このように、数kmを超える長距離通信では、2地点間にわずかな遮蔽物があるだけで通信が途絶する場合があります。さらに、天候や人の往来といった環境要因によっても通信状態は変化します。
安定した運用を行うためには、「見通しを確保すること」や「通信距離に十分な余裕を持つこと」が重要です。
実際に屋内や市街地など遮蔽物の多い環境では、数百メートル毎に中継機を設置することが多いです。弊社では、導入前に実際の環境下で通信試験を行うことを推奨しています。
実験概要
今回の実験では、製品のカタログ記載値5km程度の環境下においてどこまで通信が届くのか、さらなる長距離の実験を東京湾の海上を跨ぐ形で実験を行いました。
今回は間に遮蔽物がない理想的な環境下での実験となるため、実際の運用環境では同等の性能が得られない可能性がありますので、ご注意ください。
試験環境
測定は下記の3地点で実施しています。
- 海ほたる(5F)
- 袖ヶ浦海浜公園
- 葛西臨海公園(クリスタルビュー3F)

使用機材と条件
試験には、社内で制作した2種類のLoRa無線調査キットを使用しました。 無線調査キット②は通信ログを記録できませんが、現地で設定変更しながらリアルタイムで通信状況を確認することができます。
| 機材 | 無線調査キット① | 無線調査キット② |
|---|---|---|
| 送信出力 | 13dBm(約20mW) | |
| 帯域幅(Band Width) | 125kHz | |
| 拡散率(Spreading Factor) | 7固定 | 可変 |
| アンテナ |
λ/2モノポールアンテナ 無指向性・3dBi以下 | |
| 計測結果 | 記録 | 目視確認のみ |
| 計測箇所 | 3拠点間で計測 | 袖ヶ浦海浜公園↔葛西臨海公園のみ計測 |

試験結果
約7km(海ほたる↔袖ヶ浦海浜公園)で通信が確認できました。
計測開始直後から通信は行えていたものの、一時的に通信が不安定な状態が続きました。
原因は、袖ヶ浦側の無線調査キットを手すりよりも手前に設置していたため、アンテナ間の見通しが十分に確保できていなかったことにあります。
その後、調査キットを手すりの外側へ移動したことで、比較的安定した通信が行えるようになりました。



今回の実験により、見通しが確保された環境であれば、約7kmの距離で通信できることを確認しました。
一方で、海ほたると袖ヶ浦海浜公園間の実験結果からも分かるように、数kmを超える長距離通信では、アンテナ間にわずかでも遮蔽物があるだけで通信が途絶することが明らかになりました。
これらの結果から、LoRa無線は理想的な見通し環境下であれば5km以上の距離でも通信できることが確認されました。実際の運用環境では建物や樹木、人の往来などの影響により、通信距離は大きく変化します。安定した通信を維持するためには、「見通しを確保すること」や「十分な通信距離の余裕を持つこと」が重要です。
実際に屋内や市街地など遮蔽物の多い環境では、数百メートル毎に中継機を設置することが多いです。
弊社では、LoRa製品の通信試験や導入サポートも行っています。
通信環境に関するご相談や現地確認のご希望がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
〜実験後記〜 約22kmの長距離実験
通信がどの程度の距離まで届くのかを確かめるため、参考として約22kmの区間でも計測を行いました。
約22km(袖ヶ浦海浜公園〜葛西臨海公園)の区間では、袖ヶ浦海浜公園〜海ほたる間と同じ拡散率設定では、安定した通信を確認することができませんでした。
そこで拡散率を大きくしたところ、50%程度の通信を確認することができました。
※拡散率を大きくすると通信時間は長くなりますが、より遠距離まで電波が届くようになります。なお、拡散率の変更は実験時のみの特殊設定です。

この結果からも、長距離通信ではアンテナの設置位置や拡散率の設定、見通しが大きく影響し、実用面では中継機を設けるなどして、通信区間を分けることが現実的な運用方法といえそうです。
